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【取材】「豚を無駄にしない」という矜持と、世界戦略のリアリズム(コスタ・ブラバ・メディテラニアン・フーズ COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS))

Tomoko Kato    Tokyo 23 Junio ,2025

 

2025年4月、筆者はスペイン・マドリード州を訪れました。この地域を皮切りに、「一枚のハモン・セラーノ」に込められた知られざる物語と向き合うことになったのです。

このプレスツアーは、欧州連合(EU)が主導する高品質な農産物の国際プロモーション “ENJOY, IT’S FROM EUROPE” の一環として、スペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)からの正式なご招待を受け実現しました。

日本でもグルメ層を中心に人気の「ハモン・セラーノ(Jamón Serrano)」は、スペイン産生ハムとして知られていますが、その背景にある制度や熟成文化、そして伝統を守る生産者たちの存在については、まだ十分に知られていません。

この連載では、協会の果たす役割や現地の生産者が大切にしている哲学、そして私が現地で体験した「ハモン・セラーノ」の魅力を、日本の皆さまに丁寧にお届けします。

 

 

【取材】本場スペイン産生ハム、ハモン・セラーノの魅力(Jamón Serrano)

【取材】ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」

【取材】家族の絆から世界市場へ〜ノエル(NOEL ALIMENTARIA)の挑戦

【取材】「豚を無駄にしない」という矜持と、世界戦略のリアリズム(COSTA BRAVA)

【取材】味で語る委託専業Pernils Llémenaが支える“匠の技”

スペイン最大級の生産体制を誇る家族経営企業「コスタ・ブラバ・メディテラニアン・フーズ(COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS)」

カタルーニャ州ジローナ。地中海と山岳地帯に囲まれたこの町に拠点を構えるコスタ・ブラバ・メディテラニアン・フーズ(COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS)は、60年の歴史を持つスペイン有数の食肉加工グループです。

「農場から食卓まで(From farm to fork)」という言葉は、同社においては文字通りの現実であり、子豚の飼育から屠畜、加工、流通、さらには惣菜やグルメバーガーの製造に至るまでを自社で手がけています。

このような一貫した体制は、スペイン国内にとどまらず、5大陸・60カ国以上の食肉市場でも同社の独自性と存在感を際立たせています。

コスタ・ブラバ・メディテラニアン・フーズ(COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS)のオフィス

 1. 地元の精肉店から、年商1,800億円へ

 

「家族経営」のしなやかさと地に足の着いた判断力

コスタ・ブラバの原点は、1965年に創業者が開いた一軒の精肉店です。現在では4,000人の従業員と17の製造拠点を持つ企業へと発展しましたが、経営の中核にはいまも創業家の三兄弟とその子ども8人が携わっています。

一族による運営と聞くと保守的な印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、現場からの声が経営判断に即座に反映される柔軟さは、海外市場への迅速な対応力や規制への適応力にもつながっています。

同社は現在、年商約1,800億円を誇り、スペイン有数の屠畜施設も運営しています。1日あたり12,000頭の豚、週あたり1,000頭の牛を屠畜できる体制を構築し、その生産力は目を見張るものがあります。

輸出マネージャーのジャウメ・モレノ(Jaume Moreno)氏は、流暢な日本語でプレゼンをしてくださいました。

2. アニマルウェルフェアに向けた取り組み

 

ストレスのない環境が、肉の質を決める

コスタ・ブラバでは、すべての農場でアニマルウェルフェア(*)の認証取得を進めています。

動物に適切な飼育環境を提供することは、倫理的責任であると同時に、肉の品質を守る上でも重要です。

ストレスを受けた豚は肉のpH値が乱れ、色や保存性に影響を与えます。そのため輸送や屠畜においても細やかな配慮が重ねられているのです。また母豚にストレスを与えないことで子豚を多く産むこともわかったそうです。こうした取り組みの積み重ねが、同社製品への高い信頼を支えています。

 

アニマルウェルフェア(*)とは

世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関で、我が国も加盟している国際獣疫事務局(WOAH)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態をいう」と定義されています。
アニマルウェルフェアについては、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省としては、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及に努めています。

農林水産省HPより一部抜粋

COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS HPより画像をお借りしています

3. 豚一頭を“余さず使い切る”という信念

 

経済性と倫理が折り重なる設計

「豚は一頭丸ごと、頭の先から尻尾まで、捨てるところがありません」。

そう語るのは輸出マネージャーのジャウメ・モレノ(Jaume Moreno)氏です。この言葉は、同社のビジネス哲学を率直に表しています。カットした足はスープメーカーへ、頭部は加工して内臓製品に、内臓の胃袋はメキシコへ、首の骨は韓国へなど、必要とする国に輸出します。それができるのは各国で変わる部位ごとの消費ニーズを徹底的に見極めているからです。それぞれの用途に合わせて活用することで、豚一頭のすべてに役割が与えられています。

これは、60年かけて磨き上げられた知見と判断力の蓄積に他なりません。

食用に必要ない部位であっても、粉末にしペットフードにしたり、医薬品原料として需要があったりと、利用される。まさに素材が市場価値を持って蘇る仕組みが整えられています。最近では、豚の脳内の球状組織が医療素材として注目されるなど、畜産業の枠を超えた可能性も広がりつつあります。

4. ハンバーガー2億個と、職人の指先

 

機械と人の手が並走する現場

同社では最新の機械設備を導入し、年間2億個を超えるハンバーガーを製造しています。一方で、生ハムの骨取り作業の一部、またカットや包装など、微妙な仕上がりが味を左右する工程では、熟練職人の手作業が今も欠かせません。

脂肪の入り方や肉繊維の流れといった微細な部分は、いまだに人間の目と手にしか判断できない領域です。機械化と人の感覚が互いに補い合いながら進められる現場は、効率と品質の両立を可能にしています。

品質管理も極めて厳格です。基準に則り、常時10人以上の獣医師による定期的なチェック体制が敷かれています。また輸出先ごとに厳格な管理基準が適用されるなど、常に全体の管理が行き届くよう工夫されているのです。

5. 徹底した監査体制が築く、信頼の基盤

 

輸出大国としての矜持と、透明性の担保

コスタ・ブラバは、その高い生産力と品質管理力を背景に、製品の約50%を海外市場へ輸出しています。そのため、EU内外の多様な規格や国際基準への対応は不可欠であり、監査の精度や頻度は業界内でも群を抜いています。

「私たちの施設では、毎週か、2週間に一度を超える外部監査が実施されています」。
頻繁に監査が入るため、常に品質を重視する必要があるそうです。万一、監査に落ちると、他国へ輸出できないということもあります。世界に輸出する彼らの企業が監査に落ちると「スペイン」という国として監査に落ちたと見られるという一面すらあるのです。そのため現場のスタッフ一人ひとりが“いつ誰に見られても良い”という高い意識で日々を積み重ねる必要があります。

実際、翌日の取材時に案内された各工場では、清掃、記録、資材の保管に至るまで、整然とした状態が保たれており、監査が「たまにあるもの」でなく「日常」に根付いていることを実感しました。

このような透明性の高さと、改善をし続ける姿勢が、世界各国の食品バイヤーや消費者からの信頼を支える柱となっているのです。

6. 17ヶ月熟成のグラン・レセルバ

ジローナの空気が育てる深い味わい。ジローナの乾いた寒冷な気候は、生ハムの熟成にとって理想的な条件です。仕込まれたハモンは、時間をかけてじっくりと育てられます。

一本一本の脂肪や水分量を見極めながら、個別に熟成工程が組まれており、まさに“育てる”という表現がふさわしい現場です。

この日は、試食の際にパン・コン・トマテとともに味わったグラン・レセルバのハモン・セラーノ。まろやかな甘みと香ばしさが広がり、脂のなめらかさが舌の上に心地よく残りました。

扉を開けると、芳醇な生ハムの香りに圧倒されます

7. 仕上げは“人の手”

それが、コスタ・ブラバへの信頼の証です。この企業が本当に大切にしているのは、「目の前にある1本を、最良の状態で届けること」だと感じました。

どれだけ設備が進化しても、最終的な判断は人が行い、最後の仕上げには作り手の想いが込められています。最新の技術と手仕事の知恵が緊密に寄り添いながら成立している現場。その絶妙なバランスが、同社の製品に深みと説得力を与えているのではないでしょうか。

コスタ・ブラバは、スペインの食肉業界における一例ではなく、世界の食産業の未来に向けたひとつの可能性を体現している企業であると実感しました。

コスタ・ブラバのハモン・セラーノをチェックしている製造委託会社、ペルニルスジェメナ(Pernils Llémena)のスタッフ

8.  最後に

「ローソンのお弁当を食べたことがあれば、きっと私たちの豚肉を口にしているはずです」。
ジャウメ氏は、教えてくれました。
その言葉通り、肉のハナマサやコストコといった日本国内の流通の中に、コスタ・ブラバのスペイン産豚肉はすでに深く入り込んでいます。世界のコストコに輸出されており、コストコ・ジャパンだけでも、月に2万キロの豚肉が輸入されているという事実には驚かされました。

さらに驚いたのは、その輸送体制です。通常は約85日かかるとされる船便輸送が、わずか45日で届くコンテナルートを確保しているというのです。圧倒的に日本市場での需要が高く、信頼を得ている証なのだと考えました。

とはいえ、現時点ではまだ、精肉に比べ「ハモン・セラーノ」そのものの普及度は高くありません。
だからこそ、私は思うのです。すでに私たちの生活に深く入り込んでいるスペイン産豚肉のクオリティを知ればこそ、その延長線上にある「ハモン・セラーノ」も、もっと評価されるべきだと。

そしてその背景には、日本ではまだ浸透しきっていないアニマルウェルフェアの思想をもって、命に向き合うコスタ・ブラバの生産者たちの姿勢がありました。

次にスーパーやコンビニで豚肉や、豚肉が使われた商品手に取るとき、はたまたコスタ・ブラバのロゴ入り「ハモン・セラーノ」を見かけたとき。
今回、実際に目の当たりにしてきた、商品のその向こう側にある土地、時間、哲学に思いを馳せながら、手を伸ばしたくなるのだろうな。
そんな“目に見えない豊かさ”まで、感じさせられる取材でした。

コスタブラバのオフィスでもハモン・セラーノの試食がありました

スペインワインと食協会とは

スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。

スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)

WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org

 


スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは

企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。

多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。

今年も「スペインワインと食」に関する情報を、日本とスペインから、イベントの告知も含めて発信してまいります。最新情報をいち早く知りたい方は、毎週金曜日に配信しているスペインワインと食協会のニュースレター「LOHASPAIN」をご活用いただけたら幸いです。無料購読はこちらから。

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スペインワインと食協会 加藤智子/ PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO

福岡県出身のインポーター/ジャーナリスト。シェフ、パティシエ、ワイン販売を経て、日本の名門レストランで広報・PRを担当。飲食・流通・小売の現場経験を活かし、スペイン食材輸入販売の(株)LA PASIONを設立。2011年に「スペインワインと食協会」を創設。欧州委員会主催の農業・食品ビジネスフォーラムでは、EU加工品の専門家として講師を務めた。州政府や企業団体からは、現地展示会や生産者取材のため招聘を受けている。企画・プロデュースした人気講座「スペインワインと食大学」は、生産者、団体、企業、レストランからも開催依頼が続く。WSET Level3に挑戦中。EUワイン・食材プロモーションを担う海外企業からの日本市場支援の依頼も相次ぐ。現場と消費者をつなぐ語り手として、企画・講演・教育活動を展開中。「LOHASPAIN」編集長。オリーブオイルソムリエ®。

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