【取材】ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」
Tomoko Kato Tokyo 6 Junio ,2025
2025年4月、筆者はスペイン・マドリード州を訪れました。この地域を皮切りに、「一枚のハモン・セラーノ」に込められた知られざる物語と向き合うことになったのです。
このプレスツアーは、欧州連合(EU)が主導する高品質な農産物の国際プロモーション “ENJOY, IT’S FROM EUROPE” の一環として、スペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)からの正式なご招待を受け実現しました。
日本でもグルメ層を中心に人気の「ハモン・セラーノ(Jamón Serrano)」は、スペイン産生ハムとして知られていますが、その背景にある制度や熟成文化、そして伝統を守る生産者たちの存在については、まだ十分に知られていません。
この連載では、協会の果たす役割や現地の生産者が大切にしている哲学、そして私が現地で体験した「ハモン・セラーノ」の魅力を、日本の皆さまに丁寧にお届けします。
プレスツアーレポートはこちらからどうぞ
【取材】本場スペイン産生ハム、ハモン・セラーノの魅力(Jamón Serrano)
【取材】ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」
【取材】家族の絆から世界市場へ〜ノエル(NOEL ALIMENTARIA)の挑戦
広大な敷地のうち、最初にお伺いしたミーティングルームのある建物
1. 生産者の紹介と歴史~40年続く、家族の誇りと土地への愛
スペインのラ・マンチャ州トレドに、静かに佇むのは、腸詰と生ハムの生産工場「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」。1986年にミゲル・エスパーニャ(Miguel España)氏が、約600m2の腸詰工場として創業しました。現在では約23万㎡というスケールを誇る複数の生産拠点が広がり、今も拡大中です。ミゲル氏の4人の子どもたちが中心となり、経営の舵を取っています。
熟練の職人技と最新の管理体制がつくられ、200人の従業員とともに世界中へと“本物の味”を安定して届ける、一大生産拠点です。
2世代にわたり、地域とともに伝統を守り続け、この地の風土、湿度、風の通り道などのすべてが、熟成の自然な舞台となってきたのでしょう。年間60万本生産しているハモン・セラーノの文化を広げるため独自のギネス記録を二つ取得するなど啓蒙活動も大切にしています。「家族経営」と聞いてイメージする規模を良い意味で裏切る、それが第一印象です。
2. 職人の技×最先端技術──ハモン·セラーノ(Jamón Serrano)製造の舞台裏
ここで生まれる生ハム等は、厳選されたスペイン産の豚にこだわる事からスタートします。契約する養豚場では、飼料の内容、運動量、健康管理まで、細部にわたる厳格な飼育基準が設けられており、長年の信頼関係を築いた生産者から仕入れが行われています。使用される塩は、スペイン産の海塩。ここで生産される製品は、EUが掲げるすべての品質基準を満たすだけでなく、スペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)認証はもちろん、BRCなど国際的にも最上級とされる品質認定を多数取得。その上でなお、人の目と手による管理を徹底することで、「量産」と「本物の味」を高いレベルで生み出すことを両立しています。
ハモン・セラーノについて語るルベン・エスパーニャ(Rubén España)氏
番外編:もうひとつの職人技──腸詰加工のロモ(Lomo Embuchado)やフエ(Fuet)製造の現場から
本来ハモン・セラーノが目当ての訪問でしたが、年間800万キロもつくられているという腸詰加工のロモ(Lomo Embuchado)やフエ(Fuet)の製造現場も見せてくれました。
ロモ(Lomo Embuchado)に使用するのは、脂肪分が少なく肉質のきめ細かいデュロック種の背ロース肉。丸ごと一本をパプリカパウダーなどのスパイスに約1週間じっくりと漬け込み味をなじませます。スパイスの香りと深紅の色味が、時間とともに肉の芯まで染み渡り、唯一無二の味わいを引き出していきます。熟成の過程で、食べることのできる白カビが自然に生え、このカビが乾燥を防ぎながら、風味と旨味をじっくりと引き出していきます。
実はこの白カビ、削ぎ落とさずにそのまま食べることで、より豊かな香りと味わいを楽しめるのが本来のスタイル。しかし、商品として販売される際には、多くの場合「研磨」と呼ばれる工程で表面を整え、美観と流通の都合に合わせて出荷されるのが一般的です。
2ヶ月の乾燥後には、水分が30~40%減り、旨味もぎっしり詰まった味わいが実現します。
「ロモ(Lomo Embuchado)やフエ(Fuet)も、スペインの食卓に欠かせないから力を入れています。ハモン・セラーノと同じように私たちの哲学は同じように息づいています」と、エクスポートマネージャーで四男のルベン・エスパーニャ(Rubén España)氏は、教えてくれました。
3. そして再び、ハモン·セラーノと生ハムの多様なかたち──スライス、スペック、ブロックへ
この工場が誇る技術と経験が凝縮されているのが、やはりハモン・セラーノ(Jamón Serrano)をはじめとする生ハムです。伝統を尊重しながら現代のニーズに応える柔軟な生産体制が構築されており、一度に最大5,000本もの生ハムを製造しています。ブロックまで含めた製品の内訳は、60%が骨付きの1本もの、20%がブロック状の「ハモン・スペック」、残りの20%がスライス製品。とくに最近では、スペイン国内でもライフスタイルや家族構成の変化により、手軽に楽しめるスライスパックの需要が増加傾向にあるといいます。
大量生産でありながらも、そこには一貫した品質管理と熟練の技が息づいており、どの形態の製品にも、職人たちの誇りがしっかりと込められています。
骨なしの生ハム(骨を取り除いたブロックタイプの生ハムは、正式には「ハモン・セラーノ」とは呼べません。)
マシーンで生ハムの皮をカットしている
皮をカットされた生ハム
4. 使い勝手で選ばれるハモン·スペック(Jamón speck)と現代のニーズ
骨付きの状態で長期熟成されることで知られるハモン・セラーノですが、実は骨を取り除いたブロックタイプの生ハムは、正式には「ハモン・セラーノ」とは呼べません。そのため、こうした製品は「ハモン・スペック」と呼ばれています。
このハモン・スペックは、卸専用の商品です。養豚場ですでに骨を抜いた2つの豚肉を合体させプレスし、長方形のブロック状に成型したもの。さらに約2カ月間乾燥させることで、骨を抜いた際にできた空洞も自然にふさがり、歩留まりの良い加工製品として人気を集めているそうです。
最大の利点は、卸先がスライサーによって一定のサイズでカットできること。スライスのパック製品を作るのに取り扱いがしやすいこと。この使い勝手の良さから、国内消費向けとしては現在、主流になりつつあるといいます。
骨を抜いた2つの豚肉を合体させプレスし、長方形のブロック状に成型したブロック状の「ハモン・スペック」
5. 骨付き1本もののハモン·セラーノと生ハム
ハモン・セラーノ協会の認証製品には、長期熟成に適した肉厚の豚を使用。その証として、製品には原料肉の重量が記載されたタグが貼付されており、タグがない場合でも肉に直接印字されています。さらにセラーのカットが施されています。骨付き1本ものの全体の80%は真空パックにされ、輸出、スーパーやレストラン用となります。残りの20%は骨付き1本もののまま、メルカードなどの肉屋さん用になります。
ハモン・セラーノ協会の認証製品用は、原料肉の重量が記載されたタグが貼付されている
6. まさに“風土がつくる芸術”、その香りを確かめる儀式
最終乾燥の直前、製品には専用のプラスチックを差し込み、熟成香をチェックする工程があります。この作業は、香りに対する感覚の鋭さが求められるので、喫煙習慣のないスタッフが担当するそうです。こうした一手間が、味わいの奥行きをさらに引き立てているのです。
7. 香りが満ちるスライスルームと、職人の技
手作業によるスライスエリアに足を踏み入れた瞬間、生ハムの芳醇な香りが空間を包み込んでいました。レストラン向けに供給される製品は、ハモン関連の賞や認証を持つ熟練のコルタドールたちの手によって一枚ずつスライスされており、彼らの名前がパッケージに記載されるという徹底ぶりには驚かされます。
コルタドールたちの手によって一枚ずつスライスされたパッケージには彼らの名前が記載されるという徹底ぶり
コルタドールにより手でスライスされた生ハム
8. 24時間稼働するパッキングライン
工場のパッキングエリアでは、レーザーカットされた生ハムやロモが次々に真空パックされ、世界中へと送り出されます。4つのラインが24時間体制で稼働し、1ラインあたり8時間交代制。1人で1日約8,000パックを製造することが可能で、1日あたり合計10万パック以上が生産されています。撮影時には、香港向けにスペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)認証製品がスライスされており、国際輸出の現場を目の当たりにすることができました。
ルベン・エスパーニャ(Rubén España)氏の後ろに見えるのがレーザーカットできるパッキングライン
スペイン国内はもちろん、世界の輸出用にもさまざまなニーズに応えるスライス製品がある
スライス製品の需要も増えているそう
9. 科学的品質管理と徹底された安全性
パッキングされた製品の裏側では、安全管理室とラボラトリーが機能しており、日々8人のスタッフが品質検査にあたっています。仕入れ段階から品質チェックを実施し、出荷前にも独自の基準で再検査を行うという二重チェック体制。こうした科学的な裏付けが、世界基準を満たす品質を支えています。
10. テイスティングレポート:五感で味わう逸品
静かにとろける、深みと余韻。
テイスティングルームで試食したのは、ハモン・セラーノと熟成が様々な生ハムです。頬張ると香ばしい甘みが広がり、口に含むと驚くほどしなやかな舌ざわり。噛むほどに旨味が溢れ、笑顔になってしまいます。
とくに印象的だったのは、塩の塩梅!ルーベン氏に確認したら、一般的な製品より塩を約10%控えているため、肉の味が際立つそう。しかし乾燥に時間がかかる分、手間もコストもかかるそうなのです。しかし、それだけに風味は繊細で奥深いのでしょう。
ロモやフエも、しっとりと上品な仕上がり。こちらも一般的なものより穏やかな塩気で、スパイスとのバランスも絶妙でした。現場で確認してきた後ということもあり、より印象が変わりました。
最後に:「積み重ねられた時間も味わう」という贅沢
今回の取材で感じたのは、ハモン・セラーノは土地と人と時間が揃うから、特別であるということです。
効率を大切にし、できるだけ多くの生産を目指す。しかし同時に大量生産だけでは難しい部分も理解できました。そういうところにこそ、1本1本の骨格や肉質を見極めることができる熟練の職人たちが手作業で行う工程が随所に残されています。その繊細な手仕事が、機械では生み出せない味わいの差を生み出しているのです。
このような生産者の想いが日本でももっと伝わり、ハモン・セラーノを楽しむ文化が広がればと願わずにはいられません。
次回は、別の地域で、新たなスタイルのハモン・セラーノのレポートです。
同じ「生ハム」でも、表現は千差万別ですから、お楽しみに。
世界中に輸出されるEmbutidos y Jamones España e Hijos, S.A.の製品
Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. の方々が、工場視察の間にA3強のサイズにしたこの写真を額に入れてプレスチームにプレゼントしてくださいました。
スペインワインと食協会とは
スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)
WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org
スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは
企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。
多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。
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スペインワインと食協会 加藤智子/ PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO
福岡県出身のインポーター/ジャーナリスト。シェフ、パティシエ、ワイン販売を経て、日本の名門レストランで広報・PRを担当。飲食・流通・小売の現場経験を活かし、スペイン食材輸入販売の(株)LA PASIONを設立。2011年に「スペインワインと食協会」を創設。欧州委員会主催の農業・食品ビジネスフォーラムでは、EU加工品の専門家として講師を務めた。州政府や企業団体からは、現地展示会や生産者取材のため招聘を受けている。企画・プロデュースした人気講座「スペインワインと食大学」は、生産者、団体、企業、レストランからも開催依頼が続く。WSET Level3に挑戦中。EUワイン・食材プロモーションを担う海外企業からの日本市場支援の依頼も相次ぐ。現場と消費者をつなぐ語り手として、企画・講演・教育活動を展開中。「LOHASPAIN」編集長。オリーブオイルソムリエ®。
