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【取材】家族の絆から世界市場へ〜ノエル(NOEL ALIMENTARIA)の挑戦

Tomoko Kato    Tokyo 17 Junio ,2025

 

2025年4月、筆者はスペイン・マドリード州を訪れました。この地域を皮切りに、「一枚のハモン・セラーノ」に込められた知られざる物語と向き合うことになったのです。

このプレスツアーは、欧州連合(EU)が主導する高品質な農産物の国際プロモーション “ENJOY, IT’S FROM EUROPE” の一環として、スペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)からの正式なご招待を受け実現しました。

日本でもグルメ層を中心に人気の「ハモン・セラーノ(Jamón Serrano)」は、スペイン産生ハムとして知られていますが、その背景にある制度や熟成文化、そして伝統を守る生産者たちの存在については、まだ十分に知られていません。

この連載では、協会の果たす役割や現地の生産者が大切にしている哲学、そして私が現地で体験した「ハモン・セラーノ」の魅力を、日本の皆さまに丁寧にお届けします。

 

プレスツアーレポートはこちらからどうぞ

【取材】本場スペイン産生ハム、ハモン・セラーノの魅力(Jamón Serrano)

【取材】ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」

【取材】家族の絆から世界市場へ〜ノエル(NOEL ALIMENTARIA)の挑戦

【取材】「豚を無駄にしない」という矜持と、世界戦略のリアリズム(COSTA BRAVA)

【取材】味で語る委託専業Pernils Llémenaが支える“匠の技”

オフィスの周りには、豊かな大自然に囲まれています。

1. 4代続く情熱と成長:グローバルに拡大する家族企業

 

80年の歴史を持つ「ノエル・アリメンタリア(NOEL ALIMENTARIA)」は、親子4代にわたりスペインの食文化を支えてきた、肉加工の業界大手企業です。現在では世界66カ国に輸出し、年間売上は1,000億円超、社員数は2,600人以上。15カ所におよぶ工場にて、ハモン・セラーノなどの豚肉加工品のみならず。スープやピザなど多角的な商品開発にも取り組んでいます。

その成長の背景には、「コミュニケーション、品質、安全性、新しいものの提供、お客様に近い存在である、情熱」という5つの企業理念があります。さらに国際市場での経験をもとにお客様の声を元にしてクオリティを磨き上げる柔軟さがあります。現会長アンナ・ボッシュ(Anna Bosch)氏は、ハモン・セラーノ協会の代表も務める人物であり、国内外から高い信頼を集めています。高い天井にモダンなデザインが施されたオフィスから、最新鋭の工場まで、現場を訪れる中で感じたこと。それは事業のスケールを支えているのは“量”ではなく、“人と仕組み”の細やかさでした。

オフィスの一部(画像をお借りしています)

この日、4月23日はサン・ジョルディの日。カタルーニャ地方の守護聖人である騎士サン・ジョルディにちなんだ祝日で、親しい人や恋人に本や薔薇を送る習慣があります。NOEL社から本のプレゼントがありました。

プレゼンが始まる前の様子。それぞれに好みのカフェとパンコントマテなどが用意してありました。

 2. 世界の食卓を意識した「ものづくりの姿勢」

 

企業紹介を行ったのは、マーケティング・ディレクターのマリア・サンチェス(Maria Sanchez)氏。彼女は「NOELは、伝統的な技術を守りながら、食べる人の生活に寄り添う製品づくりを続けています」と語りました。

たとえば新商品を世に出す際には、以下の4項目のうち少なくとも3つを満たすことが求められます。

1. 消費者に健康を届けること

2. 継続可能な仕組みであること

3. 利便性と使いやすさへの配慮

4. 味わいの追求

この考え方に基づき、最近ではクリーム、ソースやスープなどの液体調理品といった新たな分野にも力を入れています。これらは商品カテゴリを広げるだけの試みではなく、多様なライフスタイルに合った“つかいやすさ”や“食べやすさ”を形にする取り組みでもあるのです。

マーケティング・ディレクターのマリア・サンチェス(Maria Sanchez)氏は、とてもわかりやすくデザインされたスライドでプレゼンをしてくださいました。

3. 品質への飽くなき探究:自社一貫の製品づくり

 

自社で管理する養豚場は8カ所。自社グループにて年間13万頭の豚を育てています。これは、1日あたり約4,000頭の処理能力に匹敵する規模です。

そこではEU基準を上回る飼育環境で豚を育てています。現在、製品の約60%がこの直営農場からの豚を原料とし、将来的にはすべてを自社供給にするという目標を掲げています。

特徴的なのは「一貫体制」です。豚の育成から加工、スライス、パッキングに至るまで社内で徹底管理されています。脂と赤身のバランスを一枚ごとに最適化するスライス技術、手で美しく盛り付けられる海外向けパッキングなど、細部にいたるまで消費者目線の工夫が施されています。

ハモン・セラーノ協会はじめ、多くの認定を取得している

ハモン・セラーノなどの加工肉以外には、液体製品への参入、肉系の商品を水圧で安全に加工する技術など、様々なプロジェクトがある

4. 人と地球にやさしい企業へ:徹底したサステナビリティ戦略

 

この企業の革新は製品だけにとどまりません。サステナビリティを「環境・人材・社会」の3軸で捉え、実効的な成果を上げています。

例えば直近の2018年から2023年の例です。

・水使用45%削減

・梱包資材プラスチック97トン削減

・食肉廃棄物50%削減

・社員教育2.2万時間実施

・社員の男女比50%を達成

また、パートナーや家族の生活を大切にするためにフレックスタイムを導入し、「性別に関係ない給料制度」で国の認定も取得。食品業界における労働環境の新しいスタンダードを築いています。

二番目にプレゼンを担当してくださったジョアン・ロレンス(Joan Llorens)氏。

5. 現場の目線で生まれる新機軸:毎日の改善と現場主導の品質管理

 

実際の製造現場を訪れると、まず床の清潔さに驚かされます。空気の清浄度や湿度、スタッフの動線まで、すべてが計画的に整えられていることがわかります。腸詰の生産ラインでは、加工、乾燥、包装といった各工程が明確に区切られ、汚染のリスクを防ぐ構造が徹底されていました。

また、スライス工場ではAI搭載の装置が稼働し、生ハム1枚ごとの厚みや脂身の分布を細かく調整しています。この仕組みによって、どのパックでも同じ品質を保てるようになっています。

さらにHACCPやIFS、BRCといった国際認証を複数取得しており、各国の輸入基準にもスムーズに対応できる体制が整っています。とくにアジア市場では、成分表示や保存管理の規定が細かく異なる中、それぞれに合わせた製品仕様を組み立てているとのことです。

スタッフの交代時間には必ず5分の引き継ぎミーティングが実施されてます。日本の「改善」文化に着想を得たという点も印象的でした。これはまさに、現場の声が企業の力になる好例といえるでしょう。

清潔で広い工場をガラス張りの廊下から視察しました。(画像はNOEL社よりお借りしています)

青い扉の奥には、腸詰加工品をしまう部屋があります。

こちらが最新鋭のロボットです。ルンバのようにプログラミングされた動きを安全に行います。

6. 数字で見る「持続可能な企業づくり」

 

ノエル社が取り組むのは、環境対策や労働環境の改善だけではありません。その姿勢は、企業全体のしくみそのものにまで踏み込んでいます。

環境への配慮:2018年比で水使用量を45%削減。プラスチック使用量は年間97トン削減。食品廃棄物の削減率は50%に到達。

人材への投資:社員教育には年間22,000時間を費やし、男女比もおおむね半々というバランスを実現。

地域社会との連携:マリア・ロサ財団を通じ、困難を抱える学生や医療機関を支援。

さらに、NOELはスペイン政府から「男女平等な給与制度」の認定を受けた最初の食品企業でもあります。これは、役職や働き方にかかわらず、すべての従業員に対して公正な待遇を保証する制度であり、社内文化としても深く根づいているそうです。

オフィスの廊下にあるNOEL社の展示スペース

7. 見た目まで計算された「盛り付けを助ける包装」

 

消費者の目線で商品を作る姿勢は、見た目にも表れています。たとえばスライス生ハムの包装では、パッケージから取り出してそのまま皿に並べられるよう工夫されています。それは輸出した国から要望があって取り入れたそうです。

会議室でのテイスティングでは、種類毎の味わいの違い、またスライスの厚みによる食感の違いが体験できました。実際の試食では、やや厚めにカットされたタイプのほうがコクが強く感じられ、用途に応じて選べる自由度の高さを実感しました。

食べやすさと風味のバランスを追求した設計により、ハモン・セラーノの可能性が広がることを実感しました。

また保存料を使わず、地中海の塩だけで仕上げたナチュラルな味わいは、老若男女問わず楽しめる上品な仕上がりです。

スライス製品にはハモン・セラーノ協会のシールが貼ってあります

クライアントの要望に応じ、様々なタイプのスライス製品があります。

8. 世界の食卓へ:スペインの魅力を届ける使命

 

NOEL社は現在、肉業界においてスペイン国内第1位の輸出量と売上を誇り、アジア市場、とくに韓国と日本への展開を強化しています。輸入業者と消費者の距離を縮めるべく、中間業者を介さずにスーパーやホテルへ直接届けるチャネルも整備中です。

「商品も大切だけど、やはり社員」。アンナ・ボッシュ(Anna Bosch)会長のこの一言が象徴するように、現場では誰もが自分の役割に誇りを持ち、生き生きと働いていました。どれほど最新鋭の設備を整え、効率化を進めたとしても、本当にいい味わいを生み出すのは、結局“人の手”なのだと。筆者は改めて考えさせられました。

塩加減を見極める感覚、熟成具合を判断する目、そして製品に込める想い。それは機械では決して再現できないものです。人がいてこそ、伝統も改善も形を成す。だからこそNOEL社の製品は、これまでも、そしてこれからも、世界中の食卓で愛され続けるのでしょう。

未来の世代へと受け継がれていく「スペインの味」。それを支えているのは、名もなき職人たちの確かな手仕事と、企業として人を大切にする文化にほかならない。取材を通じて、その確信が胸に残りました。

アンナ・ボッシュ(Anna Bosch)会長(中央)とプレスツアーのメンバー

オフィスには、キッチン付きの試食スペースがありました。ガラスの向こうには、豊かな大自然が目に入ります。

CAVAとハモン・セラーノ、ノエル社のスープなどでランチをいただきました

バケットに、トマト、オリーブオイルと塩をかけていただくパンコントマテ。ハモン・セラーノをのせても最高です。

ハモン・セラーノ、ハム製品はもちろん、フエなどの腸詰加工品も素晴らしいです。

冷やしただけで、手作りのような味わいのガスパチョ

レストランでシェフが手作りしたような新鮮なポークソーセージ(Butifarra fresca de cerdo)

最後のデザートまでフルーツにソースがかかっており、レストランのようでした。

キッチン付きのテイスティングルーム

スペインワインと食協会とは

スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。

スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)

WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org

 


スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは

企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。

多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。

今年も「スペインワインと食」に関する情報を、日本とスペインから、イベントの告知も含めて発信してまいります。最新情報をいち早く知りたい方は、毎週金曜日に配信しているスペインワインと食協会のニュースレター「LOHASPAIN」をご活用いただけたら幸いです。無料購読はこちらから。

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スペインワインと食協会 加藤智子/ PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO

福岡県出身のインポーター/ジャーナリスト。シェフ、パティシエ、ワイン販売を経て、日本の名門レストランで広報・PRを担当。飲食・流通・小売の現場経験を活かし、スペイン食材輸入販売の(株)LA PASIONを設立。2011年に「スペインワインと食協会」を創設。欧州委員会主催の農業・食品ビジネスフォーラムでは、EU加工品の専門家として講師を務めた。州政府や企業団体からは、現地展示会や生産者取材のため招聘を受けている。企画・プロデュースした人気講座「スペインワインと食大学」は、生産者、団体、企業、レストランからも開催依頼が続く。WSET Level3に挑戦中。EUワイン・食材プロモーションを担う海外企業からの日本市場支援の依頼も相次ぐ。現場と消費者をつなぐ語り手として、企画・講演・教育活動を展開中。「LOHASPAIN」編集長。オリーブオイルソムリエ®。

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