【ワイナリー訪問記】ラ・マンチャの未来のワインと、巨匠たちとの出会い
こんにちは、スペインワインと食協会の原田です。
シウダ・レアルで開催された国際スペインワイン見本市「FENAVIN(フェナビン)」のあとは、車で東に約1時間のところにある「ボデガス・ヴェルム」へ。ヴェルムのあるトメジョーソの人口は約36000人(2018)。多くの人はブドウ栽培や、ワイン・蒸留酒づくりに携わっています。ヨーロッパのワインの湖とも例えられるラ・マンチャ地方の中心に位置する町です。
トメジョーソ出身の有名人といえば、世界的な現代スペイン・リアリズムの巨匠と評されている画家のアントニオ・ロペス・ガルシア(Antonio López García)。ホテルを出てワイナリーに向かっていたら、憧れの巨匠に出逢えるなんて!なんという幸運なのでしょう。

トメジョーソの市役所前の広場に、その日設置されたばかりのアントニオ・ロペスの彫刻”大きな頭(Cabezas gigantes)”の周りには、 インマクラダ・ヒメネス(Inmaculada Jiménez)市長とアントニオ・ロペスが!感動のあまり「日本のファンです」と写真を撮っていただきました。ちなみに、この”大きな頭”は、マドリードのアトーチャ駅の前にもあり、独特のオーラを放っています。
カスティーリャ・ラ・マンチャ州の地方紙「ABC」のこの日の記事はこちらから。
「真実」を意味するヴェルム(VERUM)へ
興奮冷めやらぬままにワイナリー「VERUM」へ。ラテン語で「真実」を意味するVERUMという名は、大地に対し、ワイン造りに対し、また、すべてに対して真実でありたいという、ロペス・モンテロ家が代々受け継いでできた思いを表しています。恵まれた土地に限りない愛情を注ぎ、この土地の素晴らしさを100%活かしたいという考えは、自然と有機栽培にたどり着きました。伝統を重んじながら、効果的な新技術も積極的に取り入れる精神が「真実」の探求につながっています。

薄暗い階段を降りると、トメジョーソを代表する土壌である石灰岩をくり抜いた巨大な地下セラー「グラン・クエバ(Gran Cueva)」が広がっています。何度訪れても圧倒される「グラン・クエバ」の天井までの高さは8m、面積は約8000㎡という空間に所狭しと並ぶ樽には、ワインやブランデーが眠っています。


醸造家エリアス・ロペス・モンテロの人生を変えたLas Tinadas の畑へ

世界的なワイン評論家ジャンシス・ロビンソンMWが、
「未来のカルトワイン」「今まで味わったなかで最高のアイレン」
と、Las Tinadas Airén Pie Franco(ラス・ティナダス/ 自根のアイレン)を評してから、オーナー醸造家エリアス・ロペス・モンテロ(Elías Lopez Montero)の人生は劇的に変わりました。

英国の『Decanter』誌(2018年3月)では「スペインワインの将来を築いていく若き醸造家10人」のひとりに、その後ドイツの『Respected by GAGGENAU 2021』で世界最優秀ブドウ栽培家に選ばれ、またたく間に世界の注目を集める存在となったのです。

この日もスイスからジャンシス・ロビンソンMWとの共著「ワイン用葡萄品種大辞典」も手がけられている(和訳有り)ブドウのDNA解析の専門家であり、スイスで最も古く重要な会員制Wine Club「DIVO」のディレクターも務めるジョゼ・ヴィアモーズ博士(Dr. José Vouillamoz)と、DIVO取締役のヴァルター・ザンベリ(Walter Zambelli)がワイナリーを訪れていました。幸運なことに、お二人とのスペシャルなワイナリーツアーに、「サクリスティア」オーナー堀池麻樹さんと、二日間ご一緒させていただくことに。
ジョゼ・ヴイヤモーズ博士は、DNAプロファイリングを通じてブドウ品種の起源と親線に関する世界的な権威の一人。スイスのブドウ遺伝学者。WINE GRAPES (原著・英語) 著者:Jancis Robinson MW, Julia Harding MW, Dr José Vouillamoz. ジョゼ博士についての情報はこちら
ジャンシス・ロビンソンMWとの共書Wine Grapesの日本語版「ワイン用 葡萄品種大事典 1368品種の完全ガイド」読み応えのある大型本。各ブドウ品種が生まれた歴史を辿ると壮大なロマンを感じます。読み始めたら「あの品種は?」「それではこの品種は?」と好奇心が止まりません。
ラス・ティナダスに沈みゆく夕陽。見渡す限りの平原の、標高は意外に高く750m。日中は30℃近かった気温も、太陽が沈むとグッと冷え込みます。寒暖の差の激しさ、石灰岩土壌、年間降水量250mm前後の乾いた大地で、株仕立て、ドライファーミング、1950年に植栽された(樹齢73年)の自根のアイレンを6ヶ月間、澱と共にティナハ・デ・バロ(Tinaja de Barro)と呼ばれる巨大なアンフォラ(約4500-5000L)で熟成させて、世界のワイン評論家を唸らせる「ラス・ティナダス 」が生まれるのです。(※2021ヴィンテージの場合)
日本ソムリエ協会副会長の石田博さんの著書「ソムリエが出会った16の極上ペアリング」にも登場したペアリングの1つ、「ラ・マンチャの乳飲み仔羊×テンプラニーリョ」。この日のワインは、ラス・ティナダス・センシベル 2016 (Las Tinadas 2016 Cencibel )。センシベルとは、ラ・マンチャ地方のテンプラニーリョの呼び名(シノニム)。最高のマリアージュ。
ラス・ティナダス畑に植わる樹齢70年のセンシベル(テンプラニーリョ)。土壌は石灰岩。発酵は、蓋を開けたロックキューブ(フレンチオーク)で行い、その後大きなアンフォラに移し澱と共に12ヶ月間熟成。Tim Atkin MWも絶賛の、酸味と果実味の絶妙なバランスと、シルキーなタンニンがエレガントで余韻の長さも心地よい赤ワイン。
エリアスがスペイン、アルゼンチン、チリで醸す16種類のワインテイスティング

翌日は、朝からウルテリオールの畑を訪れました。ウルテリオール(ULTERIOR)とは、スペイン語で「未来」、ローマ語で「テリトリーの発見」を意味し、名前の通り、伝統を継承しつつ、気候変動に対応し”未来“のブドウ栽培と革新を行い、カスティーリャ・ラ・マンチャ土着絶滅危惧種の復活を目指す深い郷土愛から生まれたプロジェクトです。
マスエロ、ガルナッチャ、アルビージョ・レアル、ティント・ベラスコ、グラシアーノのそれぞれ5種類の単一品種と、ナランハ(オレンジワイン:アルビージョ・レアル85%、 モラビア・アグリア15%)の計6種類で展開されています。パルセラ(=区画)により、品種にあう土壌を選んで栽培。また、「これからの気候変動に対応する未来のワイン」というコンセプトからもアルビージョ・レアル以外は、すべて晩熟のブドウ品種を厳選しています。オーガニック農法により、土地の特徴をストレートに表現しながら、先祖代々伝わる100年もののティナハ・デ・バロ(巨大なアンフォラ)を用いた伝統製法を継承しています。
ブドウ畑訪問後は、オフィスでワインテイスティング。エリアスが、スペインのラ・マンチャとリオハ、アルゼンチンのパタゴニアとチリでつくったワイン、計16種類を試飲しました。
北緯39度のラ・マンチャの土着品種でつくるワインと、南緯39度の冷涼なパタゴニアで、ピノ・ノワールやシャルドネなどの国際品種でつくるワイン。そして、ラ・マンチャとリオハの高標高、高樹齢の畑からで生まれるテンプラニーリョのそれぞれの魅力。エリアスのワイン全てにおいて共通しているのは、テロワールを感じるという点。きれいな酸とバランスのよさ、エレガントさが増しています。
時に、世界のマスター・オブ・ワインに講義をするようなワイン界の巨匠ともいえるジョゼ博士が、膨大なデータと経験の中で培われた、ご自身の意見をしっかり述べながらも、作り手への敬意と一体感あふれるティスティングの場に同席できたことは、私のワイン人生の中で記憶に刻まれる貴重な体験になりました。
【スペインワインと食協会コラボレーター: Colaborador de AGE】
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スペインワインと食協会 原田郁美
山口県出身。広告代理店でデザイナーとして勤務後、渡西。3年間のバルセロナ生活でスペインワインと食の魅力に取り憑かれ帰国後「日本とスペインをつなぐ架け橋」を目指し独立。2011年「スペインワインと食協会」設立。2012年に再び渡西。プリオラートでワインづくりとともに輸出サポート・ワインプロモーション全般、デザイン、執筆を行う。WSET ® Level 3 。
Periodista de AGE Ikumi Harada
Co-presidenta y periodista de la AGE, que se dedica a apoyar a los productores de vinos españoles para promocionar sus productos en el mercado japonés. Se mudó a España en 2012. Actualmente ofrece un servicio con el cual apoya la exportación de vinos y alimentos españoles a Japón, se encarga de hacer la traducción e interpretación relacionada con vinos españoles y la promoción.WSET ® Level 3
Sección
Co-presidenta y periodista de la AGE. Nació en Yamaguchi, Japón. Se dedica a apoyar a los productores de vinos españoles para exportar y promocionar sus productos en el mercado japonés desde 2009. Además, coordina eventos para profesionales patrocinados por el Consejo Regulador de Denominaciones de Origen de España, escribe artículos y organiza visitas a bodegas españolas para sumilleres, importadores y periodistas de Japón. A través de la redacción y eventos de vino, trabaja para difundir el encanto de los vinos y la gastronomía de España. WSET ® Level 3

