
【レポート】「黒アヒージョ:日本発、新たなご当地グルメの可能性」
Tomoko Kato Tokyo 28 Febrero ,2025
「黒アヒージョ」―日本とスペインの融合から生まれた、新たなご当地グルメ。
2023年に誕生した「黒アヒージョ」は、千葉県の特産品であるしょうゆを使い、スペインのアヒージョの技法と、日本の旨みの文化が調和された一品です。
「黒アヒージョ料理コンテスト」は、一昨年に第1回が開催され、今回で第3回目。
今回の料理コンテストでは、さらにアヒージョの枠を超えた斬新なアレンジが次々と登場。
日本ならではの発想と、多国籍な技法が交わることで生まれた「黒アヒージョ」。
その誕生の背景と、驚きの味わいをレポートします。
チーバくん(千葉県のご当地キャラクター)
1: 「アヒージョ×しょうゆ」の意外な組み合わせ
「黒アヒージョ」という料理が誕生したのは2023年。
しかし、私がその存在を知ったのは昨年の秋、千葉県庁より、スペインワインと食文化の普及に取り組む立場から審査員のオファーをいただいたときでした。
「アヒージョ」は日本ではスペイン料理の定番として知られていますが、本国では昔からあるタパス(小皿料理)のひとつ。エビやキノコをオリーブオイルとニンニクで煮込むシンプルな一品で、バルではパンとともに気軽に楽しまれています。
ここに日本のしょうゆを掛け合わせることで、新たなご当地グルメが誕生する――
その背景を理解し、多角的な視点から評価する役割として、「加藤さんにお願いしたい」とのご依頼をいただきました。
また、スペイン人審査員のキャスティングも担当し、スペイン大使館 管理部門のルーベン・フェルナンデス氏が審査員に加わり、グローバルな視点から「黒アヒージョ」の可能性を評価する貴重な機会となりました。
このコンテストは、開始当初から少しずつ注目を集め、令和4年度には23店舗がフェアに参加し、コンテストには40作品がエントリーしました。
翌令和5年度にはフェアの開催店舗が53店、コンテスト作品も41作品へと増加。
そして今年、令和6年度には73店舗がフェアに参加し、40作品がエントリーするなど、年々規模が拡大しています。
この成長は、単なるブームではなく、黒アヒージョが本当に支持され、広がりを見せていることの証明とも言えるでしょう。
2: しょうゆ×アヒージョという革新
アヒージョは、スペイン語で「ニンニク」を意味する「ajo(アホ)」に由来すると言われています。 ニンニクとオリーブオイルを使い、エビやキノコを炒めたシンプルな料理です。 しかし、今回の料理コンテストでは、千葉県の特産品であるしょうゆが取り入れられ、これまでにない「黒アヒージョ」が次々と誕生しました。
しょうゆの持つ独特の旨みを活かしながら、魚介や肉類、野菜などの食材をニンニクとオリーブオイルでまとめ上げることで、それぞれが絶妙に調和していました。 見た目は従来のアヒージョとは異なるものの、口に含むと、まるで日本の食文化とスペインの伝統がひとつになったかのような味わいが広がるのです。
さらに興味深かったのは、グランプリを受賞した料理が、スペイン料理ではなく、イタリアンレストランのシェフによるものだったこと。その料理は、アヒージョの手法を活かしながら、日本のしょうゆを使い、イタリア料理のバーニャカウダのエッセンスを取り入れた、独創的な一品でした。
スペインと日本、そしてイタリアの技法を融合させたこの料理は、まさに「黒アヒージョ」という枠を超えた、まったく新しいジャンルの料理へと昇華していました。このアレンジ力こそ、日本ならではの柔軟な食文化の表れ。
スペイン料理の技法を活かしつつ、新たな価値を生み出す挑戦に、私は心を動かされました。

一次審査を通過した5名の皆さん。
一次審査は、今年1月17日〜1月30日までの期間にInstagram上で開催された一般投票、
写真とレシピに基づいた審査員による書類審査により実施されました。
グランプリ:美味しいパスタ専門店 ペッシェアズーロ〜青い魚〜
@pesce.azzurro 池田 征弘さん
3: 「黒アヒージョ」誕生の背景
この「黒アヒージョ」は、千葉県の職員の発想から生まれました。
特産のしょうゆを使った新しいご当地グルメを考える中で、世界の料理に目を向けたとき、選ばれたのが「アヒージョ」だったのです。
その理由は、
- 多様な食材が使えること
- 見た目が華やかで、SNS映えすること
- アウトドアなど野外でも楽しめること
ご当地の農産物と組み合わせれば、季節ごとのバリエーションも楽しめる。さらに、SNS映えする鮮やかなインパクトは、現代の食文化にもマッチします。
こうした柔軟な発想が、「黒アヒージョ」という新たなご当地グルメを生み出したのです。
私自身、この話を職員の方から直接伺うことができ、とても嬉しくなりました。
スペイン料理の「アヒージョ」が、新たなご当地グルメとして選ばれたこと。
それは、スペイン料理の奥深さや、日本における可能性を示していると感じたからです。

辻英生さん
4: 「黒アヒージョ料理コンテスト2025」の概要
「黒アヒージョフェア2025」と同時開催で「黒アヒージョ料理コンテスト2025」が実施されました。
- フェア開催期間:2025年1月17日(金)~3月9日(日)
- 実食審査(二次審査):2025年2月26日(水) 道の駅しょうなん(千葉県柏市)
審査員(敬称略)
- 全日本司厨士協会千葉県本部 理事長 荻野 勝敏(審査員長)
- 株式会社ぐるなび 飲食店支援事業部 黒沼篤
- スペインワインと食協会 共同代表 加藤智子
- スペイン大使館運転者長兼管理部門 Ruben Fdez.(ルーベン・フェルナンデス)
詳細はこちら:黒アヒージョ公式サイト
公式Instagram:@kuro_ajillo

5: 日本ならではのアレンジ力
コンテストに出品された料理は、どれも個性豊かでした。 どの料理も、それぞれのジャンルを活かしつつ、アヒージョの概念を超えていく独創的な逸品です。
日本の料理人たちの手によって、ここまで変化するとは。同時に、日本ならではのアレンジ力のなせる技ともいえます。
「スペイン料理の技法を尊重しつつ、新たな価値を生み出す」この挑戦こそ、日本の食文化の強みだと改めて感じました。

6: スペイン料理の偉大さも伝えたい
伝統的なアヒージョを知る人の中には、「これはアヒージョではない」と、感じる方もいるかもしれません。 しかし、私はこの取り組みを心から応援したいと思います。
なぜなら、「アヒージョ」という料理が、日本でここまで自由に解釈され、新たな命を吹き込まれたこと自体が、スペイン料理の懐の深さを証明しているからです。 この「黒アヒージョ」が広まることで、 本場のアヒージョ、さらにはスペイン料理全体の魅力までも、より多くの人に伝わることにつながると感じました。
それは、スペインワインと食文化を日本で伝えてきた私たちにとっても、大きな喜びです。
7: 未来への期待
「黒アヒージョ」は、単なるアレンジ料理ではありません。 これは、日本とスペインの食文化が交わることで生まれた「ご当地グルメ」です。
しょうゆという日本の伝統的な調味料が、スペインのアヒージョと出会い、さらに料理人たちの創意工夫によって進化し続けています。この挑戦が、日本国内はもちろん、スペイン本国にも認知されいくことを期待しています。
日本独自のスペイン料理がさらに発展し、新たな食文化として根付いていく日を、私は心から楽しみにしています。
「黒アヒージョ」という一つの料理が、 日本とスペインの食文化をつなぐ架け橋となる。
そんな未来を思い描きながら、当協会としても、この料理の可能性を応援し、広く伝えていきたいと思います。

総評は、全日本司厨士協会 千葉本部 理事長 荻野 勝敏さん。
現在も料理人として現場でご活躍の萩野さんのことばには、胸に迫るものがりました。
最後に:「黒アヒージョ」の未来へ向けて――料理人の想いとともに
コンテストの最後に、審査員長の全日本司厨士協会 千葉本部 理事長・荻野 勝敏さんが総評として語られた言葉が、会場全体の心を揺さぶりました。 実は理事長も、「黒アヒージョ」の挑戦を応援し続けてきた方だそうです。
発案者である千葉県の職員の方が、「アヒージョにしょうゆって、どうでしょうか?」と相談したとき、理事長も最初は大きな驚きを感じたそうです。しかし熱意が伝わり、「これは面白い、新たな可能性がある」と確信し、誕生当初から応援されてきたと。さらに、コンテストの審査を毎回務め、黒アヒージョの進化を見守ってらしたそうです。
だからこそ、この日の総評の言葉にも、料理人への深い理解と敬意が込められていた理由がわかりました。
最後に理事長は、会場にいた一般のお客様にも向けて、こう伝えました。
「ぜひ、美味しい料理を食べたら、“おいしかったよ”と伝えてあげてください。料理人は、その一言で頑張れるのです。」
その言葉に、私も胸を打たれました。
料理人は、ただ料理を作るのではありません。 皿の上には、その土地で育まれた食材の魅力や、生産者の想いが込められた料理があります。 それを食べる人にしっかりと届ける――そんな使命を持っているのです。 だからこそ、お客様からの「おいしかった」の一言が、どんな苦労も吹き飛ばし、また次の一皿をつくる力になるのだと思います。
私自身、かつて厨房に立っていた経験があるからこそ、この言葉の重みを強く感じました。 どんなに忙しくても、疲れてへとへとで大変でも、お客様の「美味しかった」の一言で報われる。 それは、料理人にとっての最高のご褒美なのです。
「黒アヒージョ」もまた、料理人たちの努力と想いによって進化し、未来へと続いていくことでしょう。
料理は、人と人をつなぐもの。 「おいしかった」というたった一言が、それをさらに深めていくものなのだと、改めて気づかされた瞬間でした。
これから先、「黒アヒージョ」はどのように進化し、どのように広がっていくのか――。
千葉の皆さんと理事長が信じ、支えてきたこの挑戦が、さらなる発展を遂げていくことを、私も心から楽しみにしています。
スペインワインと食協会とは
スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)
WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org
スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは
企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。
多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。
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スペインワインと食協会 加藤智子/ PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO
福岡県出身のフードジャーナリスト。1997年からシェフ、パティシエ、ワイン販売など多岐にわたるポジションを経験。レストラン「アクアパッツァ」広報・PRとして活躍した後、スペイン食材輸入専門のLA PASION[現:(株)LA PASION]を立ち上げ、2011年には「スペインワインと食協会」を設立。オリーブオイルを取り入れたライフスタイルを提案し、テイスティング・食育講師としても活動。2016年からフードジャーナリストとして執筆も手がける。毎週配信のニュースレターに読者が増え続け、企業や行政からスペインワインと食関連の取材依頼が殺到している。「LOHASPAIN」WEBマガジン編集長。オリーブオイルソムリエ®。