
【レポート】異文化が融合、食の未来を切り拓く夜:スペイン・コルドバの「noor」と「nôl」のコラボレーションディナー(前編)Cena de colaboración entre "noor" ★★★ (Córdoba) y "nôl" (Tokio)
Tomoko Kato Tokyo 2 August ,2024
2019年のCOOK JAPANで念願だったPaco Moralesシェフとの出会いを逃した筆者に、ついにそのチャンスが訪れました。今回、スペイン・コルドバのミシュラン三ツ星レストラン「Noor」と、日本のミシュラングリーンスターレストラン「nôl」が4日間限定でスペシャルコラボレーションディナーを開催したのです。(7月18日〜21日)尊敬する丹野シェフ、野田ディレクターとの共演、そして「Noor」の革新的なガストロノミーがどのように融合するのか。期待と興奮に満ちた夜、その全貌を前編、後編と2回に分けてレポートいたします。
1: コラボレーションディナーの背景
今回の特別なコラボレーションディナーの背景を紹介いたします。このイベントは、スペイン・コルドバにあるミシュラン三ツ星レストラン「Noor」と、日本のミシュラングリーンスターレストラン「nôl」により開催された4日間限定のスペシャルディナーです。
バレンシアでレストランを経営する食のオーガナイザーUlises氏を通じて「nôl」の野田ディレクターと「Noor」のパコ・モラレスシェフが出会いました。お互いのフィロソフィーに共感し、意気投合したことで、このコラボレーションが実現したそうです。「料理」という表現を通して社会、環境と人に向き合いながら貢献するというテーマを共有しているふたつのレストラン。
今回のディナーでは、両者の思想がどのように融合するのか、期待感が膨らむイベントでした。
「Noor」:コルドバは、イスラム文化と西洋文化が交差する歴史ある都市。パコ・モラレスシェフとパオラ・グアランディ氏がその地域の文化を深く反映したその独自のフィロソフィーを料理に反映させています。
「nôl」:2021年に誕生し、”normalize”をテーマに「これからの ”ふつう”」を提案するコンセプトのレストラン。2022年より3年連続で『ミシュランガイド東京』一つ星(現代風料理)を獲得し、2024年に初となるミシュラングリーンスターにも選出されています。
2: ディナーの雰囲気
会場に到着すると、余計なものをすべてとり去った究極のシンプルさに目を奪われます。まず感じたのは、日本とスペインの「らしさ」がないことです。「nôl」とごく自然な形で「Noor」も同一に存在しています。レストランのジャンルさえも超えた新しい世界観を感じました。これから始まる特別な体験に静かに胸が高鳴りました。
3: 料理
ディナーは、コースメニューです。まさに、ここでしか出会えない味わいを体験しました。これまで27年以上、さまざまなレストランで料理をいただいてきましたが今回は、まったく想像もできない初めての料理ばかりです。人が出会い、レストランがコラボレーションすることで、こんなにも未知の経験ができるなんて。最初から最後まで印象的で、忘れられない味わいです。料理を通じて伝えられるメッセージは、私たちが日常生活で考えるべき課題に気づかせてくれます。食がもつ力を再発見し、それを未来への貢献としてどう活かしていくかを考える機会となりました。後編ですべてのお皿をご紹介します。
4: シャンパーニュ(ワイン)のペアリング
ウエルカムシャンパンは、サステナブルなシャンパーニュ「テルモン」が注がれました。このシャンパーニュは、環境への配慮を大切にして100年以上の歴史を持つメゾンが手がけているそうです。フルーティーでありながらも、グッと深みのある味わいが印象的です。料理と一緒にワインのペアリングをお願いしたので、途中、テルモンのロゼも登場します。料理のひとつひとつに込められた思いと、シャンパーニュ、ワインとの絶妙なペアリングは、参加者全員に深い感動を与えたことでしょう。
ワインペアリングの内容も後編でご紹介します。
5: ディナーを通じて感じたこと
このコラボレーションディナーは、単なる「食べる」という食事の場を超えた、文化と思想の交流の場であり、同時に、まるで世界的なアーティストによるステージを鑑賞するような感覚を覚えました。このディナーに関わる皆さんが、これまでやってきたことのすべてを注いで、全神経をこのディナーに集中させながらも、なによりも楽しそうなのです。なんて素敵な世界観なんだろう!と、筆者は胸が震えました。「料理という芸術」を通して、持続可能な未来への道を新しく切り開いている。そう思わせてもらえる、ひとときを目の当たりにし、「レストランとは」、「料理人とは」、「食べるとは」、など、これまでの価値観をひっくり返すほどの新しい感覚さえも湧き上がってきています。
今回のシェフ、ソムリエ、サービスの方々を筆頭に、細かくは両レストランに関わるインポーターや生産者に至るまで、大きなチームの輪が広がっているように感じます。「食から社会や環境に対してなにを還元できるのか?」を模索するレストランの在り方、これからのスタンスが、大きく変化する情景を体験し、筆者個人としてはもちろん、当協会としても、今後の在り方をいろいろと考えさせられるきっかけとなったことは間違いありません。
「nôl」ディレクター
野田達也(のだ・たつや)
1985年福岡県生まれ。半導体エンジニアから料理人へ転向。都内フレンチレストランを経て2012年に渡仏。ミシュラン二つ星「Passage 53」の佐藤伸一氏(現:Restaurant Blanc)の薫陶を受け研鑽を積む。帰国後、食品製造からバルまで食にまつわる様々な見識を広げるなか、ケータリング事業に携わり再渡仏。世界各国のシェフやアーティストとのコラボレーション、イベントのフードオーガナイズを務める。再帰国後は、フリーランスの料理人として活動をする傍ら、レストラン「 nôl 」のディレクターを務める。日本最大級の若手料理人コンペディションRED U-35にて大会史上初となる三度の準グランプリを受賞。新たな美味しさの創出をテーマに食 × 医療、Art、Techなど越境·共創による価値創造に取り組む。
スペインワインと食協会とは
スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
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スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは
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多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。
スペインワインと食協会 加藤智子/ PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO
福岡県出身のフードジャーナリスト。1997年からシェフやパティシエ、ワイン販売、広報・PRなど多岐にわたる経験を積み、老舗レストランではシェフの右腕として活躍。2009年に「LA PASION」を立ち上げ、2011年には「スペインワインと食協会」を設立。スペイン食品輸入や食育講師としても活動し、オリーブオイルを取り入れたライフスタイルを提案。2016年からフードジャーナリストとして執筆活動を開始し、現在はスペインワインと食関連の取材が殺到している。「LOHASPAIN」WEBマガジン編集長。オリーブオイルソムリエ®。