vol.2 美食の道 サンティアゴ巡礼路 (日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会 森岡朋子氏)
今日のテーマは、世界遺産にも登録された「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」。私も数年前に挑戦しましたが、人生を変えてしまうほど、胸に刻まれる貴重な体験になりました。スペインをこんなに好きになったのは、この巡礼路のおかげだと言っても過言ではありません。
たくさんの心を打つ出会いや、素晴らしい景色や日常では味わえない体験と同時に、美味しい郷土料理やワインも忘れられません。
今日は、サンティアゴ巡礼から戻られたばかりの「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」の理事長 森岡朋子さんに巡礼の魅力についてインタビューさせていただきました。
【原田】 「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」の歴史について教えてください。

[デザイン]大滝陽子氏
遡れば813年の聖ヤコブのお墓の発見がきっかけと言われています。その頃、イスラム教徒に国土の大半を奪われていたイベリア半島では、キリストの12使徒である聖ヤコブの遺骸が見つかったということは、キリスト教信者たちにとっては国土回復(レコンキスタ)のためのまたとない朗報でした。早速、時のアストゥリアス王、アルフォンソ2世がオビエドからサンティアゴまでの「カミーノ・プリミティボ(最初の道)」を巡礼し、国民にその存在を知らしめました。
その後、国土回復運動の中、聖ヤコブはクラビッホの戦いに白馬に乗って現れ、劣勢だったキリスト教軍を加勢し、見事イスラム教徒を追い散らした事からキリスト教にとっても、スペイン本国にとっても「守護聖人」として祀られる存在となりました。そのことはヨーロッパ各地にも知られることとなり、多くの信者がこの地に巡礼に来るようになったそうです。12世紀にはサンティアゴ巡礼者の数は50万人にも上ったと言われています。
しかしカトリックの力の没落、ペストなどの流行病の発生、イギリスとの戦いなどがあり、サンティアゴ巡礼にも影が差し、16世紀以降、近世に至るまでその存在は忘れられてしまいます。

カストロへリスを望む
それが再び脚光を浴び始めたのは20世紀半ば過ぎ。ガリシア州のオ・セブレイロのイリアス・バリーニャ神父がサンティアゴ巡礼路の復活に向け活動を始めました。草に埋もれていた道を切り開き、巡礼者が道に迷わないよう黄色い矢印を道に印しました。彼の地道な活動が少しずつ巡礼路沿いの各地に広がり、それぞれの地で「友の会」が発足し、巡礼に行く人たちへのサポート活動が活発になりました。
今、私達が快適に巡礼ができるのも、彼らの草の根の活動のおかげともいえるでしょう。
【原田】
「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」と言っても、たくさんのルートがありますね。今日は、スペインの、ナバーラ州からカスティーリャ・レオン州の北部を横切り、ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラへ向かう「フランスの道」にクローズアップします。

【原田】巡礼の拠点の街々での料理の特徴と、お勧めメニューは何ですか?
【森岡】
・ナバーラ地方
ピンチョス、タパスが有名です。各バルがそれぞれの腕を競って様々な種類のものがあります。ナバーラの名物、赤ピーマン、白アスパラガス、コゴージャ(チコリの様なレタス)などが使われているものがお薦め。バルのショーケースを眺めて、指さしで注文してみてください。赤ピーマンならピミエントス・レジェノスと呼ばれるものを頼んでみてください。また、鱒料理も有名です。Trucha a la Navarra(トゥルチャ・ア・ラ・ナバラ)は鱒のお腹の部分に生ハムを挟んで焼いているもので、その取り合わせに最初は面を食らいますが生ハムの味が淡白な鱒に移って不思議な味になっています。
・カスティージャ・イ・レオン地方
羊肉や詰め物類が多いです。ブルゴス辺りではモルシージャと呼ばれる豚の血詰めのソーセージが名物。また、パレンシア県には仔羊の肉を焼いたLechazo de Cordero Asado(レチャソ・デ・コルデロ・アサド)で有名なレストラン、メソン・デ・ビジャシルガがあります。また、カスティージャスープ(Sopa Castellana:ソパ・カスティージャ)や、ニンニクスープ(Sopa de Ajo:ソパ・デ・アホ)に卵が入っているものも楽しめます。
・ガリシア州
ガリシア州と言えば海産物。メリデのタコ(プルポ)は有名で、Purpería Ezequiel(プルペリーア・エスキエル)は巡礼者の間でもかなり有名。サンティアゴに着けば、日本ではあまり食べられないマテ貝、とり貝の一種のベルベレチョス、亀の手のようなエボシ貝(ペルセベス)などが味わえます。また、ピミエントス・デ・パドロンと呼ばれる丸いしし唐辛子の素揚げも美味です。辛いのに当たるか当たらないかは時の運。白ワインでグイッといかがでしょうか。巡礼者に嬉しいのはCasa Manolo(カサ・マノロ)の定食(メヌー)です。量もたっぷり、味も良し、値段も安い、ということで巡礼者であれば一度は足を運んでみたいレストランです。お薦めのバルはTaberna do Bispo(タベルナ・ド・ビスポ)。味もいいし、店内もきれいで従業員もテキパキと働き非常に気持ちがいいバルで、いつ行っても人でいっぱいです。

プルぺリアの中で楽しむ人々
【原田】サンティアゴ巡礼路でのワインの楽しみ方について教えてください。
【森岡】
スペイン国内のサンティアゴ巡礼路はナバーラ州から始まりラ・リオハ、カスティージャ・イ・レオン、ガリシアと4つの州を横切りながらら進みます。なので各地でそれぞれのワインの特色を楽しみながら旅をしていくことが可能です。
やはりスペインのワインと言えばラ・リオハ州の赤ワインでしょう。テンプラニージョ種のブドウが主に使われ、ワインの格付けの中でも最も高いD.O.V.(特選原産地呼称)に指定されています。薫り高く、奥行きがあるワインが多くその余韻が楽しめます。

ブドウ畑の中の道
しかし巡礼者に一番なじみ深いのは、ナバーラ州のイラーチェ修道院近くに工場を持つイラーチェ社のワインでしょう。敷地内に「ワインの泉」と呼ばれる場所があり、蛇口をひねればワインが出てきます。巡礼者はこのワインを自由に飲むことができます。これはここの修道院が古の巡礼者たちの疲れを癒す救護所であった精神に倣ったものです。(ただし、若いワインなのであまり練られた味は期待できないでしょう…)
カスティージャ・イ・レオン州ではタンニンを多く含み、凝縮され熟れた果実の風味が口に残ります。やはり肉系統の食が多いせいでしょうか。濃厚で力強いと表現されるワインが多いです。
また、ガリシア州に入れば今度は白ワインを是非味わってみてください。特産の海産物との相性は抜群です。
【原田】最後に、ここまで森岡さんを惹きつける「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」の魅力を教えてください。

サンティアゴ大聖堂
【森岡】
私にとって、巡礼路の魅力の第一は人との繋がりです。800kmの行程を30日前後の日程で歩くわけで、その中で様々な国の、それぞれのバックグラウンドを背負った人達と出会って行きます。もちろん言葉ができるに越したことは無いでしょうが、巡礼中では言葉ではない、人間本来の真の部分でのコミュニケーションがとられることの方が多いような気がします。
「痛いものは痛い」「楽しいものは楽しい」「嬉しいことは嬉しい」。これは国や言葉、人種を越えたところでかなり共通していています。それを巡礼者同士、体感でき共有できる喜びは言葉では言い表すことは非常に難しいです。それは巡礼者同士だけではなく、私達巡礼者を受け入れ、支えてくれている地元の人たちとの出会いも同じことが言えます。彼らの尽力無しでは今の巡礼の実現は無かったでしょう。一期一会、どんな人とでもその人と出会えたことに感謝できるようになりました。
その次の魅力は自分との対峙、と言えるでしょう。歩くという行為は、人を自然に瞑想の世界へと導きます。同じテンポで歩いて行くことで少しずつ自分の内へと入っていき、思いがけない自分の過去や自分の価値観に出会うことがあり、それが今自分が向き合っている問題の解決の糸口となることがあります。私にとっては衝撃的な気づきがあり、巡礼路が教えてくれた「感謝と尊重」という2語が「友の会」を作る原動力となった事は間違いありません。これは先程挙げたの人との繋がりとかなり関係があり、自分は、全ての人と出会い、繋がることで初めて存在し得ていることに気づけたことに所以しています。
【原田】お話を聞いているだけで、魂が震えるような感動が蘇り、またサンティアゴの巡礼路に戻りたくなりました。日本でも、この巡礼路の魅力がますます伝わるように、応援させていただきます。森岡さん、貴重なお話本当にありがとうございました!
[森岡朋子氏 プロフィール]
スペインの大学院卒業後、15年間専業主婦。
2007年、サンティアゴ巡礼の取材にスペイン語、英語の通訳として同行。
サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからサンティアゴまでの約800kmを歩く。
巡礼路の素晴らしさを日本の人達に伝えること、日本から巡礼者を送り出すサポートをするため2008年、友の会を設立。2009年NPO法人化。
[日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会 webサイト]
http://www.camino-de-santiago.jp/
スペインワインと食協会 インタビュアー 原田郁美
山口県出身。広告代理店でデザイナーとして勤務後、渡西。3年間のバルセロナ生活でスペインワインと食の魅力に取り憑かれる。バルセロナ、東京でWebマーケティング会社勤務後「日本とスペインをつなぐ架け橋」を目指し独立、スペインワイン生産者の日本市場進出サポートを行う。2011年「スペインワインと食協会」設立。2012年に再び渡西。スペイン産ワインと食品に特化した、輸出サポート・プロモーション全般、デザイン、執筆を行う。WSET ® Level 3(英国政府認定)
