【スペイン美食インタビュー VOL.3】スペイン三ツ星“サンパウ” のメートル・ドテルを経て、バルセロナ初のガストロピザ屋“ノンナマリア”開店 CEO安井理恵さん

By 8 April, 2021MEDIA, NEWS, RESTAURANT, SPAIN

【スペイン美食インタビュー VOL.3】スペイン三ツ星「サンパウ」 のメートル・ドテルを経て、バルセロナ初のガストロピザ屋「ノンナマリア」開店 CEO安井理恵さん

こんにちは、スペインワインと食協会の原田です。美食の国として世界的にも有名なスペイン。その中でもバルセロナが州都のカタルーニャ州は、スペインで最もミシュランの星の数が多いことで知られています。そのカタルーニャ地方のガストロノミー界を牽引してきた、ミシュラン三ツ星「レストラン サン・パウ」のカルメ・ルスカイェーダシェフが、30周年を迎えた2018年10月、世界の飲食業界、美食家たちから惜しまれながらクローズしたニュースは、まだ記憶に新しいのではないかと思います。そんな伝説のレストラン「サン・パウ」のメートル・ドテル(ホールマネージャー)が、日本人女性だったということ、ご存知でしたか?

その方の名前は、安井理恵さん。「レストラン サン・パウ」の唯一の支店「サン・パウ東京」のエグゼクティブ・ディレクターから、スペイン本店のメートル・ドテル(ホールマネージャー)に抜擢され、10年間重要なポジションに従事した後、 現在バルセロナで注目のガストロピザ・レストラン「Nonna Maria(ノンナマリア)」をパートナーと共同経営され、先月、晴れて著書の「Pizzas para llevar (ピッツァス・パラ・ジェバール)」 がスペインで重判され再び話題を呼んでいます。

今日は、カタルーニャのガストロミー界では知る人ぞ知る、安井さんにインタビューさせていただきます。

【原田】
安井さんと初めてお会いしたのは、2018年10月「サン・パウ」本店の最後のランチでした。 カルメシェフの30年の想いと歴史が、一皿一皿から溢れ出る、一生記憶に残る唯一無二の食体験でした。カルメシェフのアーティスティック で美しいお料理はもちろん、インタビューにも同伴させていただいたことで、カルメシェフのお人柄も垣間見ることができ、なんてチャーミング な人なのでしょう!と、すっかりファンになってしまいました。

2006年から閉店する2018年まで、実に12年連続でミシュランの三つ星に輝き続けた「レストラン サン・パウ」ですが、どうして世界中に惜しまれながらも、カルメシェフは閉店を決断されたのでしょうか?

【安井】
30周年という節目もあったと思いますが、料理人という職業からの完全なリタイアというわけではなく、試合に出場して活躍していたプロサッカー選手が、サッカーの試合に出るのではなく、監督として将来の選手の育成などに携わっていきたい、とカルメシェフは語っていました。

【原田】
なるほどですね。カルメシェフは洗練されたショートカットと、ハツラツとしたキャラクターで、メディアにも愛される人気シェフですが、あと少しで70歳、と聞いて心底驚きました。背筋がピンとしていて 、すべての動作に無駄がなく機敏。 シェフの言動から滲み出る、ポジティブなエネルギーは凄いですね。監督としてのカルメシェフからますます目が離せません。

【安井】
有名シェフはテレビ、ラジオ、講演などでとても多忙な方たちが多く、キッチンで毎日料理をされている方は少なく見受けます。しかし、カルメシェフはテレビ、ラジオ、講演は必ず定休日に受けており、毎日昼、夜、スタッフとずっと一緒に仕事をしていました。もちろん指示だけではなく、野菜を切ったり、お肉や魚を捌いたり、本当に料理とお客様への愛情が感じられました。

接客の面では、カタルーニャのお客様が来店した時、日本人の私がカタルーニャ語で接客をするのが地元の人達にとっては結構新鮮だったと思います。


【原田】
スペイン語や英語だけでなく、カタルーニャ語での接客は、 カタルーニャのお客様は心底嬉しかったと思います。地元愛の強いカルメシェフにとっても、カタルーニャ語も堪能な 安井さんこそ、「サン・パウ」のメートル・ドテルにふさわしい、と思われたのではないでしょうか。安井さんとカルメシェフとの出会いや、働くことになったきっかけを教えてください。

【安井】
小さい頃から語学が大好きで、高校を卒業後渡米、アメリカの大学で学び(外国語学部 スペイン語学科)、最初は通訳や翻訳の道に進む予定だったのですが。たまたま留学先のバルセロナで日系旅行会社での仕事が見つかり、その後ヒルトンホテルに転職、世界からのVIP対応レセプション勤務、日系企業への営業を経て、人生のパートナーであるフランス人シェフJérôme Quilbeuf (ジェローム・キルボフ)の紹介でカルメシェフと知り合いました。

レストランサン・パウ東京。中央のカルメシェフの両隣が安井さんとジェロームシェフ

会った時からなんだか彼女とフィーリングがあって、その次の日にお電話をいただき、「私と一緒に働きませんか?」 とお誘いを受けました。彼女は感性の人(フィーリング重視)、なのでもちろん履歴書なんて私は提出していません。(笑)。世界のトップレストランでの勤務は、レストラン業務の経験がない私には無理だとお断りしましたが、結局説得されてしまいました。はじめは 本店で、一から研修、修業しました。お掃除、窓拭き、お店に飾る花をいけることからはじめて 、料理説明、レストランの歴史、お店の美術品について、食材や調理法、接客と、本当に一から教えてもらいました。

その後、東京店へ駐在として4年間の勤務を命じられ「サン・パウ東京」でエグゼクティブ・ディレクターを務めました。その後、本店に戻りメートル・ドテル(ホールマネージャー)としてスペイン人の部下たちと一緒に、世界からいらっしゃるお客様に最高のひとときを提供し続けてきました。カルメシェフがいつも、レストランにおいて料理は50%、サービスは50%と言っていました。料理が美味しくてもサービスが悪ければダメ、その反対もダメだと。まさにその通りだと思います。

【原田】
スペインもまだまだCOVID-19の影響は深刻ですね。今のバルセロナの飲食業界の状況はどんな感じですか?

【安井】
去年の3月からCOVID-19の影響で特にカタルーニャの飲食業界は大ダメージを受けています。1年過ぎた現在でも営業時間の短縮(夜は営業できない)、レストラン内のお客様の数など厳しい制限が敷かれています 。生き残るためにテイクアウトやデリバリー、ケータリングにターゲットを絞って活動している友達のシェフたちがたくさんいます。トップシェフのDani Garcia(ダニ・ガルシア)やDavid Muñoz(ダビッド・ムニョス) も早くからバルセロナでのグルメデリバリー事業展開に取り組んでいました。

【原田】
安井さんは、2016年 6月に、バルセロナでグルメピザ・レストラン「ノンナマリア」をオープンして話題になりましたね。サンパウのイメージが強かったのでピザ屋さんと聞いてとても驚きました。どうしてピザを選んだのか 、理由を教えていただけますか?

【安井】
ピザはファーストフードというイメージが強いですが、そのイメージを変え、厳選された食材、概念に囚われない グルメピザ、今まで私が培ったガストロノミーレストランでの経験を生かした、まったく新しいピザを、お客様に提供してみたかったんです。ピザは子供から大人まで幅広く楽しむことができ、星の数ほどのありとあらゆるコンビネーションを生み出す事ができます。地元にはイタリア人シェフの美味しいピザ屋さんがたくさんある中、何か違う私たち唯一のピザを作り出し、このピザは「ノンナマリア」でしか食べられない!という存在を目指したかったんです。

最初は、日本人の私とフランス人のパートナージェロームが「何故ピザ屋?絶対無理」 と、風当たりも強かったですが。(笑)そのオリジナリティーが結局は強みになったのだと思います。例えば日本人であることも生かし、ピザ生地にお好み焼きの具を入れて焼いた”Okonomiyaki Pizza”や テリヤキチキンと紫蘇を使った”Teriyaki pizza”などは、お店の人気メニューになっています。

【安井】

そして「ノンナマリア」 は、協力してくれる友達のシェフなしでは語れません。毎月お友達のシェフたちが代わりがわりに月替りピザを提案してくれます。もちろん、カルメシェフも協力してくれましたよ。他にもお友達のスペイン、フランス、オランダ、ベルギーの星付きシェフたちが、今までに協力してくれました。本当に感謝しています。

【原田】
安井さんとジェロームさんのお友達のシェフたちは、カルメシェフを筆頭に、錚々たる豪華な顔ぶれですね。月ごとに、一流シェフたちの限定ピザが楽しめるなんて、まさに世界にたったひとつしかない、特別なピザ屋さんですね。

ところで、先程、有名シェフがコロナをきっかけに、グルメデリバリー事業を展開しているというお話を伺いましたが、グルメピザのテイクアウトも、コロナ禍後、バルセロナで目にするようになりましたね。でも、2016年6月のオープンから、グルメピザに取り組んでいる「ノンナマリア」は、バルセロナのパイオニア、先駆け的存在と言っても過言ではないでしょう。「ノンナマリア」のピザは、バルセロナ以外でも食べられますか?

【安井】
食べられますよ!2020年10月にオープンした、ザ・タワー横浜北仲、オークウッドスイーツ横浜の46階The Yokohama Bayにて「ノンナマリア」プロデュースのピザをお楽しみいただけます。コロナ前には、バルセロナ支店と、世界3カ国で出店準備をしていましたが、現在ストップしている状況です。早くコロナが収束し「ノンナマリア」のピザを、世界の皆さんに召し上がっていただきたいです。

【原田】
バルセロナで話題のピザが、日本でも食べられるなんて素敵ですね!世界展開もされるなんて、これからが本当に楽しみです。
そして改めて、安井さんのパートナージェロームさんとの共著「Pizzas para llevar(ピッツァス・パラ・ジェバール)」の重版、おめでとうございます!まるでテイクアウトのピザの箱のようなデザインが、とても斬新で素敵ですね。

【安井】
ピザの箱を開けるとピザの本が入っているというアイディアで、自宅で作れるピザレシピや今までコラボレーションしてきたシェフ達のオリジナルピザレシピを掲載しています。先週から南米でも販売が始まりました。写真は世界のトップシェフの料理を撮り続けている親友の Carles Allende(カルレス・アレェンデ)氏に撮ってもらいました。

【原田】
カルレス・アレェンデ氏は、「エル・ブジ(El bulli)」時代からフェラン・アドリア氏やアルベルト・アドリア氏の写真を手がけている、世界的にも有名なガストロノミー写真家ですね。 世界のベストレストラン1位にも輝いた「カン・ロカ(El Celler de Can Roca)」や、カルメ・ルスカイェーダ氏、クリスチャン・エスクリバ氏など、スペインを中心とした世界のトップシェフたちの仕事、作品、素顔を撮り続けているエリート写真家が、安井さんの本の写真を手がけられているなんて本当に凄いことだと思います。永久保存版ですね!

日本からもAmazonでご購入いただけるそうです!

【原田】
最後に。これからのカタルーニャのガストロにミー界はどうなっていくと思いますか?また、安井さんの今後の展開、目標について教えてください。

【安井】
コロナ収束後は接客時のお客様との距離、衛生面の強化、換気、サービスの導線、お料理はシェアできるのか?国は飲食店に対してどのようなルールを作るのかなど、未だ不明ですが柔軟に対応していかないといけないと思っています。メニューはQRコードになるでしょうし、支払いもカードメイン、テーブルのソーシャルディスタンス。なるべく人と人が近く触れ合わないレストランになるのであれば、なんだか本当に悲しいです。

この1年の間、デリバリー、テイクアウトをする方がとても増えているので、これからもデリバリー業界は発展して行くような気がします。スペイン国内移動や海外への旅行が難しくなった今、カタルーニャでは州の中で楽しめるCASA RURAL(田舎の家)やRESTAURANT KM0(地元の食材を使ったレストラン)に人気が出始めています。私はレストランの敷地内で野菜を栽培し、地元のワインを提供し、伝統的な料理をモダンにアレンジするようなレストランに注目しています。

スペインはモレキュラーガストロノミー(分子料理)で世界に素晴らしい料理技術を発信しましたが、これからはもう一度原点に戻り、食材本来の味を生かした、シンプルなトラディショナルなお料理に戻って行くような気がします。

【原田】
ここ数十年間、世界を虜にしつづけてきたスペインのガストロノミーレストランが、コロナ禍で苦難を強いられている今、業態やサービスのあり方など、試行錯誤が迫られていますね。そんな中、いち早くガストロピザのレストラン展開に踏み出されていた安井さんとジェロームさんの先見の明は、これからもバルセロナの飲食業界に大きな影響を与えていくのではないかと思いました。当協会は、これからもお二人に注目して応援していきたいと思っていますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。安井さん、今日は本当にありがとうございました!

【安井】ありがとうございました!

【原田】
スペインワインと食協会「スペイン美食インタビュー」、第三回目は、バルセロナのガストロピザ・レストラン“ノンナマリア”CEOであり、スペインの三ツ星レストランでメートル・ドテルを務めた初めての日本人、安井理恵さんにインタビューさせていただきました。「スペイン美食インタビュー」では、これからもスペインワインと食の世界で今を輝く方にインタビューしていきますので、どうぞお楽しみに。

バルセロナ初のガストロピザ屋「NONNA MARIA /ノンナマリア」CEO安井理恵さんについて

【Nonna Maria Barcelona(ノンナマリア)】
Aveinda Sarrià 50 Hotel Melia Sarrià
ノンナマリア

【THE YOKOHAMA BAY(ザ・ヨコハマ・ベイ)】
神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 ザ・タワー横浜北仲46F
横浜高速鉄道みなとみらい線「馬車道駅」直結
「ノンナマリア」プロデュースのピザがお楽しみいただけます。横浜の景色を360度楽しめる無料展望台あり。
ザ・ヨコハマ・ベイ

 

[ノンナマリア CO- founder・CEO 安井理恵さんプロフィール]

北海道旭川出身、高校卒業後渡米、ワシントン州立大学1997年卒業。専攻は言語学外国語学部、スペイン語学科。その後スペインに留学、バルセロナの旅行代理店、ホテル業界を経てミシュラン3つ星サンパウのホールマネージャーとして計10年勤務。2016年に起業。グルメピザ屋 Nonna Maria を立ち上げる。最近は唎酒師としてスペインに日本酒を広める活動もしている。

安井さんのYouTube『RIEバルセロナ』
カタルーニャの地元の人々に愛される名店が、食のプロの目線から楽しく紹介されています。

●安井さんのパートナー ジェローム・キルボフ氏が、シェフを務めるレストラン

グラシア・ガストロバル・デ・バルセロナ
スペイン料理とワインを楽しめる広尾のお店。ボトル、グラスワインとも豊富です。

●安井さんおすすめ。カタルーニャのレストラン

EL JARDÍ del Sant Pau
ミシュラン3つ星サンパウ閉店後、その跡地にオープンした(カルメシェフの娘夫婦)、カフェバー。バルセロナから電車で1時間。地中海が見渡せるテラスとお庭で軽食が楽しめます。おすすめ。スペインワインセレクションも豊富。

スペインワインと食協会 原田郁美

山口県出身。広告代理店でデザイナーとして勤務後、渡西。3年間のバルセロナ生活でスペインワインと食の魅力に取り憑かれる。バルセロナ、東京でWebマーケティング会社勤務後「日本とスペインをつなぐ架け橋」を目指し独立、スペインワイン生産者の日本市場進出サポートを行う。2011年「スペインワインと食協会」設立。2012年に再び渡西。スペイン産ワインと食品に特化した、輸出サポート・プロモーション全般、デザイン(グラフィック・Web)、執筆を行う。WSET ® Level 3(英国政府認定) 。