【全メニュー公開】レポート(後編)「瞬間を味わう、未来を物語る」 noor × nôl 特別コラボディナー Cena de colaboración entre “Noor” ★★★ (Córdoba) y “nôl” (Tokio)

【全メニュー公開】レポート(後編)「瞬間を味わう、未来を物語る」 noor × nôl 特別コラボディナー Cena de colaboración entre "Noor" ★★★ (Córdoba) y "nôl" (Tokio)

Tomoko Kato    Tokyo    9  August ,2024

 

 

スペイン・コルドバのミシュラン三ツ星レストラン「Noor(ヌール)」と、日本のミシュラングリーンスターレストラン「nôl(ノル)」による夢のような4日間限定のスペシャルコラボレーションディナーのレポート、後編です。

前編はこちらからどうぞ

https://spainwinefood.org/noor-nol/

「noor」と「nôl」の皆さんが手を組み、両レストランの独自のコンセプトを融合させたこれまでにない料理が登場します。それぞれのレストランが持つ文化的背景やフィロソフィーがどのように交わるのか、期待感が高まるイベント。

今回はレストランのコンセプト、そしてすべての料理をご紹介します。

noor

スペイン・コルドバにある「noor」は、アンダルシアの歴史と文化、とくにアブデラマン3世の時代からインスピレーションを得ています。Pacoシェフは、歴史家、考古学者やデザイナーと協力し、料理というキャンバスに、ヌール独自の世界観で歴史の物語を描きます。その、ひと皿がまるで過去と現在をつなぐタイムトラベルのようです。

nôl

東京の「nôl」は、自然と調和する料理哲学を大切にし、旬の食材から本来の味を最大限に引き立てる料理を提供しています。野田ディレクターと丹野シェフは、自然と人、そして未来を見据えた食の在り方を探求し続けています。持続可能な未来を目指しながら、新しい「普通」を形作るためのメッセージが込められています。

TELMONTのシャンパーニュ製造

レミー コアントロー ジャパン株式会社(RÉMY COINTREAU JAPAN K.K.)福岡 光紀氏

スペシャルディナー体験

0.アミューズ

Amuse

ウズラの卵のタルトと、パエリアのおこげ。今回、協賛パートナーであるシャンパーニュ・テルモンに合わせて考えられたとのこと。サステナブルな方法でシャンパーニュ製造を目指しているというコンセプト、期待に満ちたひと皿目のインパクト、それぞれが互いをグッと押し上げています。

1. キュウリ、メロン、ミント(画像:左)

Cucumber, melon and mint

見た目にも爽やかなスープは、瑞々しいキュウリ、メロンの甘さが、ミントのフレッシュな香りと共に、夏の一瞬を閉じ込めたような一皿です。10年熟成のシェリービネガーが、コクと酸味、深みのある味わいの秘密。日本未入荷のビネガーだったので試飲もさせていただきました。

 

2. 茄子ときび糖のパン(画像:右)

Bun with aubergine and sugar canc honey

スープと並び、和のセットのように目にも美しい香ばしく焼き上げられたパンは、甘みとコクのある茄子が絶妙にマッチ。きび糖が全体を包み込んでいて、シンプルながらも心に残る味わいです。

3. 刹那一瞬間を食べる

Flavor from the moment

「刹那一瞬間を食べる」という詩的な名がつけられた一皿。上の皿(画像:左)にはバターナッツの花があしらわれています。中に成熟していない実を刻み、魚でつくられた生ハムを巻いてあります。そっと皿を手にとると、形を変えた成熟したバターナッツに出会えます。(画像:右)旬の素材を幾重にも変えた味わいは、ひとときの美しさと味わいが詰め込まれています。食べるたびに繊細な発見がありそうなので、来年も食べてみたいです。

4. 産土一畑を食べる

Flavor from the fields

「どれだけの時間をかけたのですか?」と聞いてしまった茄子のカッティングが目を惹きます。イチジクと夏野菜が大地の恵みを感じさせる一皿。タバスコの泡がユニークなアクセントを加えており、舌の上で弾けるその味わいも初体験でした。大地の力強さとともに遊び心を感じさせる一品です

5. ピスタチオのカード、帆立貝、ガルムのスノー()

Pistachio curd, Scallop, Sea urchin and Garum snow

このひと皿は、ビビットで濃厚なピスタチオの味わいに、新鮮な帆立が寄り添います。たっぷりとかけられたガルムのスノーがアクセントをもたらし、甘みと塩味のバランスは、一口ごとに驚きを隠せません。

(*)ガルム(garum)は、古代ローマの魚醤です。当時のローマにおいて主な調味料として使われていました。(Wikipediaより)こちらをパウダー状にしてスノーとしています。

6. 甘海老、アンティーブ、キャビア、ラスエルハヌートスパイス()、イベリコ豚のラルド、PXビネガー

Ama-shrimp, Endive, Caviar, Ras el hanout, Pork belly and PX vinegar

パコシェフから声がかかり、ゲスト全員が厨房内に集合。目の前で料理が完成していくという想像もしない体験にレストラン全体が一体となり興奮に満ちていきます。甘海老の甘さとたっぷりのせられたキャビアの塩味が見事にバランスを取り、砂漠のスパイス「ラスエルハヌートスパイス」がエキゾチックな風味を添えてくれます。ホセリートのイベリコ豚のラルドがコクを与える印象的な味わい。50年熟成のシェリーヴィネガーが、さらに格上げしてくれます。

(*)このミックススパイスは、つくる人により独自のブレンドがあります。

7. アーティーチョーク、すじ青のり、江丹別のブルーチーズ

Suji-aonori(seaweed), Artichoke, “Eraabetsu” Blue cheese

アーティーチョークの柔らかさと、江丹別のブルーチーズの強い風味。すじ青のりの海藻の香りという、これまでに味わったことのないユニークな味の組み合わせです。ペアリングの日本酒が新鮮ながら、しっくりきています。

8. 和牛、スイートペッパー、ターメリッククリーム、そば、ラブネチーズ(()Wagyu, Sweet pepper, Tumeric cream, Buckwheat and labne

目にも鮮やかな仕立ての柔らかくジューシーな和牛。スイートペッパーの甘みとターメリッククリームのスパイシーさと共にいただくことも初めてです。焼いたパプリカの濃厚なうまみ、カリカリとしたそばの香ばしさとラブネチーズのコクが全体のバランスを整えています。

(*)ラブネチーズ・・・ラブネは(濃厚なヨーグルト)という意味で、ヨーグルトからつくられるチーズです。

9. 蝶鮫、牡蠣、袋茸

Sturgeon, Oysters, Straw mushrooms

キャビアをとり終わったメス、もしくはオスの蝶鮫を麹と昆布でマリネし、マッシュルームと揚げて仕立ててあります。蝶鮫の風味と、牡蠣のミネラル感が見事に融合していそうな一皿。「していそうな」というのは、筆者はアレルギーのため、牡蠣をいただけなかったからです。(画像は牡蠣ではありません)最後に目の前でソースをかけていただいて完成します。

10. 鳩のロースト、焦がしトマト、レバーパテ

Roasted pigeon, Burn tomato and Liver pate

10皿目に登場した鳩のロースト。満腹になっていても、楽しめるよう工夫されていると感じたのは、グッと旨みが詰まった焦がしトマトの甘酸っぱさです。その味を引き立てつつ、滑らかなレバーパテが全体にリッチさを加え、締めくくりに最高の贅沢な一皿です。

11.オレンジ、ヨーグルト、柑橘の花、揚げたアーモンド、オリーブオイル

Orange, Yogurt, Orange blossom, Fried almonds and Olive oil

このデザートが提供されると、パコシェフがゲストの口に秘密のスプレーをひとふきしてくれます。最初は、鮮やかなオレンジのデザート。たっぷりのソースの上にはソルベ、香ばしいアーモンドが添えられています。甘味と酸味、ソルベの冷たさ、食感とそれぞれのパーツごとはもちろん、合わせても楽しめる工夫がほどこされています。

12. ルバーブのデクリネゾン()、桃のソルベー赤の饗宴

Rhubarb variations and Peach sorbet

最後は、艶のある赤が美しい一皿。ルバーブのコンポートの上にのせられたソルベは、桃を皮ごとつかってつくられています。爽やかな甘さが口の中に広がります。鮮やかで心地よいフィナーレです。

(*)デクリネゾンとは、ひとつの食材をさまざまな調理方法で生かすことを意味しており、フランス料理の基本的考え方でもあります。

ハーブティー:コンポスト農園のハーブティー

Herb Infusion, Circul ar Farm-to-Cup

ディナーの最後には、自然の恵みいっぱいのハーブティーが提供されました。nôlの皆さんが「万物の土壌でもある土を再生するべく、都心だからこその取り組みを、越境、共創を通じて実現していきます」と、新たに手がけている「Compost Farm」のものです。フレッシュなハーブの香りが、食事の余韻を優しく締めくくり、心地よいリラックス感をもたらします。プティフールは、とうもろこしのタルト。最後のひと口まで、ときめく味わいのリレーを堪能させていただきました。

 最後に

今回のコラボレーションディナーは、すべての料理がまるで独自の物語を語りかけてくるような、シェフの想いと技術が詰まった味わいを体験しました。両シェフを筆頭にスタッフ皆さんで創り出す空間、考えつくされたペアリングのワインは、2度と忘れることがないでしょう。なぜならこのディナーを通して、それぞれの文化や思想を超えるような新しい想いを目の当たりにしたからです。

「誰かの何かのきっかけの場になることも、nôlのミッションでもあると考えています」と、ヘッドシェフ就任の際に語られていた丹野シェフ。まさに今回のディナーからこれまでにない食の可能性の広がりを経験させていただき、気がつくと子ども時代の純粋なワクワクとした気持ちになっている自分に驚きました。同時に「レストランとは何か」、「料理とは何か」、「食べるとは何か」といった根本的な問いが湧き上がります。今までの価値観が揺さぶられる感覚は何年ぶりでしょうか。東京のレストランに憧れて上京したとき以来かもしれません。「料理がただの食事ではなく、アートであり、コミュニケーションであり、これからの道しるべにもなる」このディナー体験が筆者に教えてくれたことです。これからのレストランやスペイン食文化がどのように進化していくのか、持続可能な未来を見据えた食の在り方をフードジャーナリストとして、ますます取材していきたい。改めて、自分がやってきた仕事の存在意義まで考えるきっかけもいただきました。スペインワインと食協会を通して、これまで以上に皆さんにしっかりした記事をお届けしていきたいと考えています。

スペインワインと食協会とは

スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。

スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)

WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org

 


スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは

企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。

多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。

 

今年も「スペインワインと食」に関する情報を、日本とスペインから、イベントの告知も含めて発信してまいります。最新情報をいち早く知りたい方は、毎週金曜日に配信しているスペインワインと食協会のニュースレター「LOHASPAIN」をご活用いただけたら幸いです。無料購読はこちらから

スペインワインと食協会 加藤智子 / PERIODISTA DE AGE TOMOKO KATO

福岡県出身のフードジャーナリスト。1997年からシェフやパティシエ、ワイン販売、広報・PRなど多岐にわたる経験を積み、老舗レストランではシェフの右腕として活躍。2009年に「LA PASION」を立ち上げ、2011年には「スペインワインと食協会」を設立。スペイン食品輸入や食育講師としても活動し、オリーブオイルを取り入れたライフスタイルを提案。2016年からフードジャーナリストとして執筆活動を開始し、現在はスペインワインと食関連の取材が殺到している。「LOHASPAIN」WEBマガジン編集長。オリーブオイルソムリエ®。